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11月28日(日)に行いました「第六回氷川短歌賞選評会」の受賞作品を発表します。
大賞と選者賞の作品には、先生方からコメントをいただきました!
最後には先生方が皆さんと同じテーマで詠んだ短歌もあります。ご覧ください。 

☆大賞☆

ああだれか恨んで死んでみたい春いちばん尖るバゲッドを買う    草薙

【水原先生からのコメント】

 この歌は予想外の初句からの展開の面白さがポイントです。不吉といえば不吉ですが、常識を超える情念をパンという日常的な素材で表現したところに作者の独自性があると思います。たしかにバゲット(バゲッドと表記されていましたが直しました)は、先が尖っていて、切り立った精神を感じさせますね。

【東先生からのコメント】

 パンを食べる行為と「恨んで死ぬ」というヘビーな感情が結びついた点が衝撃的でした。でも、「だれか〜みたい」という形の文章なので、まだ特定の誰かを恨んでいる状態でもなく、死からも遠い状態であることが分かります。若さゆえの「尖り」への憧れを込めつつ、体感としてリアリティがあります。怪我をしそうなほど尖っているバゲッドほど美味しいものです。いろいろなことの始まりそうな「春」に、とても似合います。

魔法じゃないし、じゃなくていいし。食パンをピザに変えれる、笑える ぼくら   木下侑介

【水原先生からのコメント】

 この歌は非常に知的に覚醒した精神で作られていると思います。もはやこの世に魔法はなく、その現実を冷静に受容している作中主体がいます。食パンをピザに変えることができるのは、ピザトーストを作ったということかも知れませんが、表現が巧みで、まるであるはずのない魔法を使ったかのようです。でもそんなものは存在しない、と笑うのです。

【東先生からのコメント】

 「じゃないし、じゃなくていいし」という、今どき若者がカジュアルに使っている言い回しを、リフレインを使って生き生きと表現した点が楽しいです。現代の若者の気分の一つを感じることができます。さらに、「変えれる」とら抜き言葉による軽快さにも注目したいです。「魔法」と呼ばれるような超人的な力を使わなくても、認識一つで日常を豊かにできる感覚があることを、「ぼくら」の視点から客観的に表現しています。

☆選者賞 水原紫苑賞☆

焼きあがる香りのみちて朝陽さすバターナイフの銀の細くに  玖嶋さくら

【水原先生からのコメント】

 幸福感に満ちた風景です。パンの焼きあがる香り、朝の陽光、すべてが祝福のしるしのようです。その風景が、結句で「バターナイフの銀の細くに」という繊細で鋭利な対象に絞られるところが美しく、心を惹かれました。「細くに」の語法は少し無理がありますが、それを考慮しても魅力的な一首でした。

パンくずを集めるために翔びたてり泪で浄められたつばさで  内田拓海

【水原先生からのコメント】

 この歌はアンデルセン童話に基づいて詠まれたそうで、私はその作品を知らないのですが、「泪で浄められたつばさで」の「泪」が、神様の「泪」のようで、強く心に響きました。上の句を読めば、鳥がパンくずを拾っている光景のようですが、下の句と合わせると、あたかも天使がパンくずを集めに翔びたったようにも読めます。美しい一首です。

☆選者賞 東直子賞☆

パン屑を遺灰と散らす昼休み水平線を遠景として      岡野伸吾

【東先生からのコメント】

 昼休みに一人でそっと抜け出して、遠くに水平線の見える場所に、パン屑を散骨のようにちらしたのです。追悼したい人や出来事があり、自分だけの儀式としてそのようなことをしたのではないかと思います。昼休みとパンの組み合わせから、学校が舞台であるように感じました。古くなって固くなった給食のパンを、たった一人になれる場所でばらまいているのかもしれませんね。淋しいけれど、深い安堵感もある歌です。

売り切れでもパンのみにて生きよ!!台風の夜に強力粉捏ねる   浮沈子

【東先生からのコメント】

 「人はパンのみにて生きるにあらず」というイエス・キリストの言葉をもじって、マイルールとして台風の夜の行動を描いたという、大胆な構成に打たれました。台風が接近しているときって、なんともいえない興奮が起こるので、強力粉をひたすら捏ねて一心にパンをつくる情熱に直結する感じも、説得力をもって迫ってきます。「!!」がよく似合い、必然性を感じました。文体と場面設定が絶妙に呼応しています。

氷川賞(来場者による投票)

初恋の君好みしは昨日までパンとは知らず七十になる               北条暦

夕焼けを最後にひとり迎え入れパン屋はそっと扉を閉める        小川拓馬

水原先生、東先生から景品贈与。おめでとうございます!

最後は希望された参加者の方と一緒に記念撮影をしました。
受賞された皆様、おめでとうございます!  

   下の写真:水原紫苑先生(前列向かって右)と東直子先生(前列向かって左)

先生方の短歌(テーマ詠「パン」

ひときれのパンを盗みしにんげんは星座となりぬ春の天球          水原紫苑

きるこねるこぼれるひろうまるめこむパン・オ・ショコラ森の昔日         東直子

ご参加いただき本当にありがとうございました!
今回初めて短歌を詠まれた方もいらっしゃいました。
皆様もこの機会に是非、短歌に親しんでいただけると嬉しいです。