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7月4日(土)に行いました「第5回氷川短歌賞選評会」の受賞作品を発表します。
大賞と選者賞の作品には、先生方からコメントをいただきました!
最後には先生方が皆さんと同じテーマで詠んだ短歌もあります。ご覧ください。 

大賞

妹をぶったら驚くほど飛んだ木馬はみんな笑わなかった    草薙

【堂園先生からのコメント】

 おそらく子どもの頃の、初めて暴力を振るったときの記憶が描かれている。その後悔と驚きの気持ちを「木馬はみんな笑わなかった」で表している。遊園地の楽しい雰囲気が一瞬で変わってしまった時に、それまで愉快なものであったメリーゴーランドの木馬まで自分を責めているように感じたのだろう。「遊園地」という題でこうしたテーマの歌が詠まれるのが面白く、散文的な文体もより驚きを強調していて効果的だと思った。

【東先生からのコメント】

 思いがけず暴力の加害者となったことを生まれて初めての痛感したのだろう。その瞬間、周囲の景色がまるで違って感じられ、回りつづける木馬が真顔に見えた。そこには、とりかえしのつかないことをした自分自身の心情が投影されている。淡々とした文体の描写によって、気持ちを言葉にすることもできない放心が伝わり、余韻や味わいとなった。楽しくテンションが上がる遊園地を舞台に斬新な切り口で詠まれていて、心に刺さった。

空中でさかさになってうれしそう遊園地って海に似てるね      高山由樹子

【堂園先生からのコメント】

 たしかに遊園地では絶叫マシーンに乗ったり空中ブランコに乗ったり、空中で逆さになることが多い。つまり非日常ということだが、その非日常をこの人は海につなげている。海も水の中で逆さまになったりする非日常の場だ。その2つの非日常の場を重ねたとき、この人の感受したものが驚くほど精密になった気がした。そして、まるで遊園地が海の中にあるかのような幻想を読者の中に喚起させる。

【東先生からのコメント】

 遊園地以外で「空中でさかさ」になる体験はなかなかないだろう。重力から自由になった空間として遊園地を捉えた発想の自在さに強く魅かれた。結句によって遊園地がまるごと深海へとしずみ、私たちは魚のように、海月のように空間を泳ぎ、さまよう者になれる。とても楽しい。本来なら絶叫しているような人を「うれしそう」と捉え、不思議なその楽しさを導き出した。話しかけるようなやさしい口調の結句の雰囲気が、歌全体がやわらかく包む。

選者賞 堂園昌彦賞

いつまでも少女のままのジョディ・フォスター移動遊園地はどこまで行くの? 

コイケタツオ

【堂園先生からのコメント】

 ジョディ・フォスター(1962〜)はアメリカ出身の女優。「いつまでも少女のまま」とは、ジョディ・フォスターが『タクシードライバー』等の少女のイメージを世間に強く残していることと、いつまでも若々しいことの2つを表しているが、そのことに含まれるある種の無惨さを下句で表現している。「移動遊園地」は非日常がどんどん移動し続け、永遠に続いていくようなもの。それは美しいけれど、やはりどこか無惨なところがある。イメージのつながりが面白い。

デートなら遊園地だと言う君が笑えば春のようだと思う       中嶋港人

【堂園先生からのコメント】

 「デートなら遊園地」はずいぶんシンプルいうか、ひねったところのない考えだ。しかし、作者はそれを好ましく思っている。「春のようだと思う」は「君」自身を暖かさを連れてくる「春」のような人だと思っているのと、「君」が笑うと周囲が春のような柔らかく暖かい雰囲気になるということの、ふたつが同時にあるのだろう。かなり具体性の省かれたおおづかみな言葉遣いだけれど、だからこそ「春」の複雑なニュアンスが保存されている。

選者賞 東直子賞

子等乗せて回転木馬は渦(うず)を巻き大きな空に歓声混ぜ込む   浮(ふ)沈子(ちんし)

【東先生からのコメント】

 回転木馬に子どもたちが乗っている時間の心理的な盛り上がりが強調され、視覚化されている。馬や馬車や豚など、カラフルな装飾がほどこされたさまざまな形の乗り物に、子どもが最初はちょこんと座って止まっている状態から、だんだん速度が増していく回転木馬のドライブ感を、情景がどんどん足されていくような構成が力強く演出している。時空間のイメージが広がり、大きなエネルギーに巻き込まれるような酩酊感がある。

閉園を告げるメロディみちみちて迷路の箱で真空になる     楓すず

【東先生からのコメント】

 閉園のメロディーが鳴ると、ああもう帰らなくてはと、切ない気持ちが増してくる。迷路の箱から出なくてはいけない。しかしもしかしたら閉園に間に合わず、このまま箱の中に閉じこめられてしまうかもしれない。それは怖いことだが、同時に、永遠にこの遊園地にいられることでもある。「みちみちて」は、不安感と共に期待感にもつながり、永遠に迷路の奥に行ってしまいたいと願っているようでもある。「真空」は、永遠の時間の比喩なのだろう。

氷川賞(来場者による投票)

妹をぶったら驚くほど飛んだ木馬はみんな笑わなかった    草薙

売店に並ぶ虹色キャンディーと君にだけなら裏切られたい   みそのあや

今回は14時の回の大賞受賞作品が氷川賞もダブル受賞となりました! 

最後は希望された参加者の方と一緒に記念撮影をしました。
受賞された皆様、おめでとうございます!  

下の写真:堂園先生(右から3人目)と東先生(左から3人目)

先生方の短歌

歌が声をまとって君にあらわれる遊園地夜更けまで艶めいて      堂園昌彦

てっぺんにもうすぐ届く光なす揺り籠生まれ落ちる泣き声       東直子

ご参加いただき本当にありがとうございました!
今回初めて短歌を詠まれた方もいらっしゃると思います。
この機会に是非、短歌に親しんでいただけると嬉しいです。